CASIO GP-300BKは遅れてきた高級機か(中編)

 カシオの電子ピアノのブランドイメージは、はっきり言えば「高級」からは少し遠いところにいたと思う。なるべく色眼鏡をしないで製品剪定を行おうと思っている私も、カシオの電子ピアノは、低価格帯ではコストパフォーマンスが高いが、高級機種はない、あるいは、本格的な電子ピアノとしては不足している、といったものだった。事実、私の知っている範囲では売価で20万円を超える値段帯でカシオの電子ピアノを見かけたことはなかったと思う。

 そこに、GP-500BPとGP-300BKがリリースされた。

music.casio.com

 非常に力の入ったホームページである。

 店頭でちらっと試し引きした感じは、悪くない、といったものだった。タッチが良いかもな、という点と、音も良いかも、といった印象があった。ただ申し訳ないことに私自身はベヒシュタインというピアノメーカーを知らなかった。きっと相当に有名な、高級なピアノメーカーなのだとは思うが。

 とここまで進んできたところで、やはりYAMAHAか、CLP-575か、と店員さんと交渉したところ、恐ろしいことにCLP-575のブラックの納期は3ヶ月先だとおっしゃる。クルマじゃないんだからそりゃないでしょうよー、と思ったものの、電子ピアノはどこで買ってもメーカーからの直送であり(ある一定以上の高級機種の場合)、他の店で在庫がある、というわけではない。どこの店でも3ヶ月先である。

 CLP-585なら比較的すぐ、とも聞き、実際試し引きしたが、素晴らしい仕上がりだが、値段がやはり高い。

 うーむ、これは困った、と唸っていたところで、「ところでカシオの新しいのの納期はどのぐらいですか」と尋ねたところ、一週間ちょっとでお届けできます、と嬉しいお答え。よしっ、カシオの新しいピアノを徹底的に調査して、弾いて、納得したら買おう!と決めた。

 腰を落ち着けて試し引きしてみると、タッチの良さはやはり光っている。実際の中身の仕組みは上記のウェブで見てもらえでわかるが、相当にコストのかかった鍵盤である。また、実用性はともかく、上を開けるとハンマーが実際に動いているのが見えるのも面白い。

 また、音色も良い。カシオが前面に押し出している「ベヒシュタイン」の音色はすばらしい。ベヒシュタインの音色はピアノ上ではベルリン、と表示されている。そして、ベルリンの他に、ハンブルク、ウィーン、がある。このハンブルク、実はスタインウェイだと思う。そして、ウィーンはベーゼンドルファーのはずだ。この二つの音色も、ベヒシュタインのベルリンに負けない良い音である。

 電子ピアノの音色はたくさん搭載されている機種も多いが、「その中で常用できるのはどれ?」と言われても、ピアノの音色は一つだけ、みたいなことが多い。ピアノ以外の音源は、電子ピアノを買ったわけだから電子ピアノとして常用するケースは少ないし、コストのかかった音源を二つ、三つと用意するのはメーカーにとっても大変だから、ピアノ種の音源はメインのもの意外はあまり魅力的ではないものが多かったと思う。特徴があっても、常用はできない、といった感じだ。

 現行のクラヴィノーバはその点頑張ったなあと思う。YAMAHAオリジナルの素晴らしい音源に加えて、ベーゼンドルファーを搭載。しかも、ベーゼンドルファーの名前を使っているのだから、ベーゼンドルファーのお墨付きを得られるようなクオリティの音源なのであろう。

 今回のカシオの三つの音源はどれも良い。常用してもおかしくないクオリティだと感じた。スタインウェイとベーゼンドルファーはブランドをカシオが名乗ることができないのでどこにもそれが書いていないが。

 ヘッドホンで弾いた感じも良かった。ベヒシュタインのベルリンはやや質素な印象を最初受けるが、弾きつ付けると「ああ、こういうものだったな、ピアノは。」と感じる。

 というように、思いの外良い印象を試し弾きで得ることができた。しかし一方で気になることも見えてきた。(後編に続く)